12th Player【後編】


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私の高校時代のサッカー部のマネージャーの直美ちゃん。

サッカー部を引退する最後の日のお話です。

 

 12人目のプレイヤー

 

最後の試合

前編に話を戻します。

見事、1回戦で敗北してしまいました。 

しかも、完膚なきまで叩きのめされた試合でした。

試合終了の整列、挨拶をし、ベンチに戻りました。

周りで、健闘を称え合ったり、泣いてるものもいました。

私は、試合中に感じた複雑な気持ちのまま、淡々と片付けをしました。

多分、誰も私には声を掛けられない雰囲気だったと思います。

Kに今日は解散し、明日ミーティングすると伝え、マネージャーを連れて、相手チーム

のベンチへ向かいました。

これは本来、顧問の先生の仕事なのですが、私が相手の顧問に挨拶をしに行かないとい

けません。これが大嫌いでした。

いつも、この仕事をすると、気持ちが冷めてしまいます。

相手の監督に挨拶を済ませ、相手のキャプテンに 挨拶をしました。

このキャプテンは私の中学の同級生でした。今でも付き合いのある友人です。

「絶対、全国行けよ。」

「おう絶対行く、それより、お前、後悔してへんのか?」

「してないって言ったらウソになるかな。でも満足はしてる」

「そうやな、いいチームを作ったな。厳しい試合やった。有難う」

さすがは、強豪校のキャプテンです。こんな、お世辞が言えてしまうのですから。

 

後悔かと言われたら・・・

私は帰り道にマネージャーに少し話をしました。

「さっきの後悔ってなに?」

「あぁ、あれ、実はさっきのキャプテンとは小学校から一緒で、あの高校のセレクションも一緒に受けたんよ。俺は落ちたけどな(笑)」

「えっそうなん」

「俺な、1年の時に、中学のサッカー部の同級生から、ウチの高校でサッカーしてるのを反対されたことがあるんよ。もっとレベルの高いとこがあるやろって。クラブチームからも誘いがあったしな。」

「大笑君は、後悔してるの?」

実は、試合中に少し、後悔と言うか、こんな高いレベルの中でサッカーをしたら楽しい

だろうなと感じたシーンが幾つもありました。

自分が中学の頃に憧れていたシーンでした。

「う~ん、、、どうかなぁ」

私は、正直ショックでした。あいつとは、中学時代は互角だったはずです。でも今日の

試合で随分と差を付けられていました。努力とか才能でなく、環境の差だと自分に言い

聞かせていたと思います。

だから、マネージャーには、はっきりと返事が出来ませんでした。

 

 

 

最後のミーティング

翌日、練習は休みで、ミーティングをしました。

次期チームの組閣の発表をしました。

最後の挨拶をしようとした時に、先生が横から入って来ました。

「今週末に送別試合を組んだから、挨拶はその後にしよか」

今回、3年で試合に出たのは私とKだけだったので、マネージャーが先生に頼み込んで

試合を組んでくれたそうです。

私の高校サッカーが1週間延びました。

3年は凄く喜んでいました。当然、私もすごく嬉しかったです。

マネージャーを胴上げしてやるチャンスが出来たからです。

 

最後の試合

最後の試合はなんとか勝てました。

実は試合終了前から、私は泣きそうでした。 

このサッカー部での思い出の大半は辛い思い出でしたが、不思議と楽しい思い出が蘇っ

て来ました。

  

ベンチに戻り、全員の前で、最後の挨拶をしました。

1,2年には、私たちの無念を晴らしてほしいと伝えました。

3年生が出れなかった最後の試合を無駄にしないで欲しいと伝えました。

3年生には、泣きそうで、言葉が詰まり、言葉になりませんでした。

「ありがとう」を連呼していたと思います。

Kと示し合わせた通り、マネージャーを胴上げすることにしました。

最初は悲鳴を上げていましたが、胴上げが終わると、ボロボロに泣いていました。

泣きながら、彼女も「ありがとう」を連呼していました。

 

試合後、私はみんなが帰った後も、部室で思い出に浸り、一人の時間を楽しみました。

と言うか、また泣いてしまいました。

抑えていた感情が一気にあふれて来ました。

前キャプテンから、キャプテンを受け継いでいた時のこと、

なかなか上手くチームをまとめられず、イライラし、悩んだこと。

自分の練習時間がなかなか取れず、不満と焦りの日々を過ごしたこと。

練習の成果が出てきて、試合が楽しくなり、仲間とも楽しい時間を過ごせたこと。

それでも、悩みの連続で、嫌になって、いつも逃げたくて仕方なかったこと。

そんな時、いつも、マネージャーが助けてくれたこと。

そうそう、Kはマネージャーに、ついにフラれたこと。

 

 

 

自分自身、もっとレベルの高いところで、サッカーをやりたかった。

家庭の懐事情を考えたら、特待生での学費免除以外、私学に入学は無理でした。

結果、公立の、よりによって弱小高校のサッカー部に入部しました。

目の前には、昔の自分では見向きもしない、トロフィーが飾っています。

仲間と一緒に勝ち取った、小さな小さな大会の準優勝トロフィーです。

準優勝トロフィーが、なぜか誇らしかったです。

 

これが自分の分相応だったのかも知れません。 

最後の最後に、自分自身の力不足を認めることが出来たのでしょう。

最後の戸締り

思い出に詰まった部室に、一礼をして帰ろうとしたとき、マネージャーが外で待ってい

るのに気づきました。部室の鍵はマネージャーが持っていたのです。

「大笑君って意外と涙もろいなぁ」と笑われました。

でも、彼女の眼にも涙が見えました。

マネージャーは部室の風景を見ながら、

忘れ物が無いか確認するように、色々な出来事を振り返りました。

それは、私と一緒で、辛い出来事ばかりでした。

 二人でまた半べそをかいてしまいました。

そして、二人の視線の先には、トロフィーが微笑んで、見送ってくれてるようでした。

 

彼女は、1度でいいから、試合に出て、一緒にグランドを走り回りたかった。

そしてグランドでみんなと喜びを分かち合いたかったそうです。 

私が、試合中に、思い通りにならず、イライラしていることをよく知っていました。

でも、精一杯声を出し、周りを鼓舞する姿もい見ていてくれました。

トロフィーを見て「準優勝ってとこが、私ららしいな」って笑ってました。

最後に、私の点を取ったときのポーズが印象的だったと言われました。

 

 私は、あることを思い出しました。

 

「そうや、これは誰にも言うなよ、特にKには。ええもん見せたるわ」

「なに、なに?」

私は、バックからユニフォームを出して見せました。

よく見ないと、解らないぐらいのものでした。

「見えるか?」

「直美って書いてるやろ」

「これな、中学の時に流行ってたおまじないなんや。背中を押してもらうって意味があるねん。」

「お前はいつも、俺と一緒にグランドに立ってたんやぞ、つらい時はいつも背中を押してくれたんや。」

 

 

それを見て、彼女があることに気付きました。

私が得点をした時に、ベンチ前で背番号を見せてガッツポーズをするのです。

「あれってそういう意味やったんか。もっと早く教えてよ。アホやなぁ。照れて顔を見せられへんだけやと思ってた。」

「そうかぁ私も試合に出てたんやな。みんなと一緒にグランドに立ってたんや」

思っていた以上に喜んでくれました。早く言っとけ良かったです。

少しだけ恩返しが出来たかもしれません。

 

 

いつも、この部室は、最後に私が出て、彼女が鍵を閉める。

この一年間ずーっと繰り返してきたことでした。

「最後やな」

「もう忘れものはないか」

「大笑君はない?後悔はないの?」

「後悔はない」

初めて、心から「後悔」がない事を、彼女に伝えることが出来たかもしれません。 

 

二人で、鍵を回しました。

「カチャ」鍵の音が、薄暗くなったグランドに響きました。

本当の意味で、私たちの部活動が終わりを告げました。

明日からは、こうして一緒に戸締りが出来なくなると思うと少し寂しかったです。

何より、明日から、彼女はマネージャーではなくなることが寂しかったです。

 

 

幸い、彼女はクラスが一緒でした。以前より話をする機会が増えてような気もしました

が、やはり、彼女にはマネージャーとしていて欲しかったです。

Kがやたら、ウチのクラスに来るようになりました。

あいつは卒業前にマネージャーに再度フラれたようです(笑)

 

Kとは、卒業後も細く付き合いを続けています。文通をしていた時期もありました。

あいつは、今学校の先生をしています。

サッカーを教えず、陸上部だと言ってました。なんでやねん、、、

 

直美ちゃんは、卒業後、何度か地元でばったり会ったことはありますが、付き合いはあ

りませんでした。どこでどうしているのか分かりません。

Kも必死であっちこっち連絡して探しているみたいです。

Kとのメールでのやり取りです。

「そんなん、焦って連絡しても仕方ないやん。きっと会えるわ」

「お前は、やっぱり薄情や。お前も探せ。絶対探し出せ」

「お前がちゃんと捕まえてへんからあかんのやろ。二回もフラれやがって」

 

 

同窓会で会えるか分かりませんが、元気でやっていると信じています。

私達、サッカー部の12人目のプレーヤーのお話でした。

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